もうすぐこの路地も終わる。
駅の喧噪に紛れる前に、
今こそ、ちゃんと言うよ。
風に負けぬように、音に消えぬように、
君に届くように...
「風に負けぬように」
突然の春の嵐に、帰宅を急ぐ人たち。
線路沿いの道はとても狭くて
すれ違う傘が、順番待ちをしている。
頭上の華奢な空色の傘が、
少し照れくさくて、かなり嬉しい。
ロッカーで留守番の置き傘よ、
今日だけはささやかな嘘を許して。
電車が通るたびに、会話が途切れる。
「桜も、もう終わりだね」
呟いた筈なのに、ついつい声が大きくなる。
駅まではささやかな距離。
少しでも多く、話がしたい。
風に傘が煽られて、君が小さく悲鳴を上げる。
もう、傘も無意味な程ずぶ濡れで
叩き付けられた花びら、ぬかるむ足元。
こんな散々な帰り道なのに、
もう少し、歩いていたい。