「いってきまーす」
玄関のドアをいきおいよく開けて、
キミはトントンと弾むような足取りで外へ飛び出していく。
まあたらしい制服に、まあたらしい白いクツ。
まだ身体になじんでいないのか、少しきゅうくつそう。
学校がはじまる前に慣らしておきなさいねって言われたのに、
結局キミは一度も外でははかずじまいだったね。
ママは心配していたけれど、でも大丈夫。
キミの身体はきっとクツなんかよりずっとずっと軽いから。
ほら、急いで。
外では年代モノのカメラを片手に、
お祖父ちゃんがキミをつかまえに待っているよ。
家の門の表札の前で、にっこり笑ってじっとしているように言われたけれど、
キミはどっちかひとつしか出来ないみたい。
動き回る笑顔か、立ち止まってちょっとむすっとしている顔か。
「こら、じっとしていなさい」
後から出てきたママにしかられたけど、
本当はちっとも怒ってはいないんだね。
お祖父ちゃんも、もう写真に撮るのはあきらめたみたい。
ほんのりとうすく上品にお化粧したママを、
キミはまるで美術品でも見るみたいにぼぅっと見上げているよ。
「さ、もう行くわよ。式に送れちゃう」
そう言って差し出されたママの手を、キミは軽くふりはらって走りだす。
タッタッタ、トットット。
なだらかに続く坂道を、キミは陽のさしてくる方へ駆け上がっていく。
僕はキミの後ろからそっと、何度も何度もキミを追い越すよ。
可愛らしい三つ編みからこぼれたおくれ毛を、
細い黄金(キン)の糸のようにして、ふわふわと風に遊ばせてあげる。
満開のさくらをざわざわと鳴らして、
ときにはひときわ強くキミの頭上を通り過ぎていこう。
キミよりも一足先に坂を上り、それからゆっくりとふり返って、
白くまぶしい世界にキミが出てくるのを待っていよう。
来年も再来年も、またその来年も。
僕はキミたちと一緒に、この坂を駆け上がっていこう。