「砂糖工場のある街 〜風見鶏の夢〜」

この街の南には、大きな砂糖工場があるのです。
私は、街を見下ろす丘の上、古びた洋館の屋根で、
ずっと風を読み続ける風見鶏。

南から風が吹く、春の夕暮れ時には、
何故か香ばしい匂いがたちこめて、暫しの眠りに誘われるのです。
そんな時の夢は、決まって昔の風景。

館の主人の、暴れん坊の子供達が、
揃って帰ってくるのは、この時間。
「いい、匂いだね。何だろう?」
「砂糖工場からだよきっと」
「なんか急に、お腹空いてきたよね」
「うん。かーちゃん、もうご飯作ってるかな?」
「早く帰ろうよ。もうお腹ペコペコだよ」
館の主人も、いつの間にか足どり軽く帰ってきました。
今宵も家族揃って、賑やかな食卓。

どうやら、このいい匂いの風には、不思議な力があるようです。

とっぷりと日も暮れて、風向きが変わる頃、
私は目覚めて、今夜も星を数えるのです。
この街もずいぶん変わりました。
館の子供達も、すっかり大きくなり館を離れ、
主人はすっかり年老いて、館も荒れ放題。

変わらぬものと言えば、
ゆっくり時間の流れる春の夕暮れと、南からやってくる
あのいい匂いの風でしょうか。

今も、この街のどこかで
あんな光景を見られるのでしょうか。
■BGM:風見鶏の夢

★作曲:MUGEN ★イラスト:JILLさん ★テキスト:
Haniさん